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敵なのか、それとも人なのか-パレスチナ人囚人の日常2017.4.3

メッカに向かって祈りを捧げる囚人たち

haaretz.co.il」より


さてイスラエルでも冬が去り、出エジプトを祝うペサハが10日後に迫るなど春のムードになってきました。そんななかこちらではパレスチナ人の政治犯を収容する刑務所に関するドキュメンタリー番組が大きな話題となっています。


この『メギド』と呼ばれる番組はパレスチナ人囚人のみが拘置されている、メギド刑務所に1年半潜入した様子を3回の放送(各1時間)に渡って紹介したものです。番組では政治的メッセージではなく人間関係を主題にし、緊迫していると同時にいたって日常的でもある日々を看守と囚人が共に過ごしている様子を淡々ととらえています。メギドにいるパレスチナ人囚人は千人以上、その大半がハマスのメンバーまたは関係者で中にはイスラエル兵や民間人を殺傷したテロリストも含まれています。そんなイスラエルで『凶悪犯』とされる囚人たちを監守しているのが、イスラエルの精鋭兵によって構成される看守部隊300人です。一般的にパレスチナ囚人のドキュメンタリーでは囚人側を中心に描かれたものが大半ですが、『メギド』では刑務所での両者間で行われる対話を中心に構成されています。

雑居房でイスラエルのニュースを見ながらアラブ人政党に関して話し合う囚人たち

walla.co.il」より

またカメラは共有のスペースだけでなく雑居房にも潜入し、パレスチナ人たちの考え方の変化もとらえています。ある部屋では8人の囚人が生活を共にしているのですが、そこではイスラエルのテレビ番組を見ながらパレスチナ紛争やイスラエル内にあるアラブ人政党に関して話し合っています。そんななかである囚人が「敵を学ぶ必要性からイスラエルについて刑務所に来てから学び始めた。最も正しいのは私たち(の自治政府)ではなく、イスラエルが私たちの責任を持つ(=イスラエル国家で生きる)ことだ。」とハマスのメンバーとしては驚きの発言をしています。


しかし番組ではイスラエルの正当性のみを一方的に主張するだけでなく、囚人たちの献立に関する待遇改善を求めたが却下された様子など刑務所での生活でパレスチナ人が抱く不満なども隠さずに伝え、「パレスチナ人テロリストの人権を保護とは?」という問題提起をしています。プロデューサーのイツィク・レルナーは「多くのイスラエル人が自分たちの国を中東唯一の民主主義国と自負している。そう主張する者の中には、パレスチナ人囚人も1人の人であって犯罪者であったとしても人権やその他得るべき権利を与えなければいけない、という事について忘れている人が多い。この番組を通してそのことを思い出してもらえれば」と大手紙ハアレツのインタビューに製作した意図を答えました。

「イスラエルが私たちに関する責任を持つべきだ」とイスラエルによる単一国家を希望する囚人

walla.co.il」より


現在イスラエルでは、ネタニヤフ首相があまりにも左派的な国営放送を解体し新しい放送局を設立するというメディア改革が進んでおり、それに対して国会内外で大規模な反対運動が左派によって起こるなど国全体がメディアに関するトピックにピリピリしている状態です。そんななかこの『メギド』が放映されたので、右派からはいつも以上の反発が起き日本を訪問していたミリ・レゲヴ文化・スポーツ大臣が「(視聴はしていないが)テロを推奨している可能性があるため、法的処置も含めて対応したい」との声明を出しました。それに対して製作者は「視聴もしていないのに責任感に欠けたコメントだ。過去にイスラエルを人種差別的国家として取り上げた作品は多くあったが、『メギド』はそのカテゴリーには含まれない」と反論するなど、放映後も様々な場所で論争が続いています。


筆者にはやはりイスラエル国民になる事が最善だと述べた囚人の言葉が最も印象に残りました。囚人同士の政治に関する会話自体がハマスが聞けば「シオニズムに魂を抜き取られた裏切者」と激怒してしまうような内容ばかり。その中でも彼の発言はハマスとは対極に位置するものですから、彼が釈放後も無事に生きていけるかが少し心配です。 また彼の発言はパレスチナ問題で起き得る大きなねじれの可能性を物語っていたように思います。イスラエルでは左派が2国家共存を標榜し、右派は2国家にはこだわらない・または単一国家という立場が一般的で、パレスチナでも同様の傾向です。しかしこの囚人は「パレスチナ国家樹立のため闘う」というパレスチナによる単一国家論か妥協的2国家論という極右から、「イスラエル国家の方が良い」という自身の国家を放棄するというパレスチナ人としては超左派的かつ単一国家の考えに至りました。彼のようにパレスチナ側の左派が時間とともに2国共存からイスラエル国家選択へとシフトし始めたら・・・2国家共存を支持するイスラエル左派とイスラエルによる単一国家を支持するパレスチナ左派、双方の左派が相反する考えを持つという奇妙な状況が起こる事になります。最も重要な「2国家共存か単一国家か」という二択でパレスチナ人左派はイスラエル人右派と同じく単一国家論で一致し、ハマスなどパレスチナ右派とイスラエル左派が2国共存で一致するという、極めてねじれた状況が生まれるわけです。 パレスチナ問題に関して国際社会は「双方の当事者が望む2国家共存による解決」とという立場をほぼ一貫してとっています。しかしこの『メギド』で発した彼の言葉は、その当事者が望む解決策がいかに一筋縄でなく複雑かを物語っているように感じました。



「バラガン」とはごちゃごちゃや散らかったという意味のイスラエルで最もポピュラーなスラングです。ここでは現地在住7年のシオンとの架け橋スタッフが、様々な分野での最新イスラエル・トピックをお届けします。



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