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トランプ大統領のエルサレム首都宣言  ~言った事・言わなかった事~ 2017.12.12

エルサレムをイスラエルの首都とする発言をする歴代大統領とトランプ現大統領

トランプ大統領公式ツイッター より)

トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都だと認定する談話を発表して、1週間が経ちました。イスラエルでは「歴史的決定」との歓迎ムード、その反面アラブ諸国からは反発、国際社会全体でも和平交渉がいよいよ遠のいたとの悲観的な声が広がっています。
今回のコラムではトランプ宣言を、少し違う角度から考察したいと思います。


1.歴代大統領の路線を踏襲しているだけ

まずエルサレムをイスラエルの首都だとする発言をした大統領は、トランプ氏が最初ではありません。1992年にクリントン元大統領は、「エルサレムはイスラエルの首都であり、全ての人が訪問できるよう分割されていない状態でなければならない」と発言。次代大統領のブッシュ氏も大統領選中、「私が(大統領の)職に就いたあかつきには、イスラエルが決めた首都であるイスラエルにアメリカ合衆国大使館を移転させる」と発言し、当選しました。またネタニヤフ首相とは冷え切った関係だったオバマ前大統領でさえ、「イスラエルの首都はエルサレムになるだろう」という発言を繰り返してきました。
現に95年に、エルサレムをイスラエルの首都として認め大使館を移転させる、「エルサレム大使館法」が制定されています。ですからトランプ大統領の今回の発言は、歴代大統領そしてアメリカ政府の基本的スタンスを繰り返しているものだという事が分かります。


2.問題はトランプ氏とホワイトハウス

ではなぜ今回のトランプ宣言だけが、ここまで世界中で取り上げられているのでしょうか。その理由は2つ考えられます。
1つ目の理由は発言場所です。歴代大統領はエルサレムを首都とする発言を、オバマ氏は比較的カジュアルな取材中、ブッシュ・クリントン両氏も選挙戦中や国内向けの記者会見などのホワイトハウスの外でされた発言です。もちろんアメリカの大統領やその候補ともなれば常に公人、どんな発言でも世界中で報じられる可能性があります。しかし、発言する場所によってその重みが随分と変わってくるのもまた事実。その点発言自体はそれほど前任者と変わりませんが宣伝を前もって打ち、ホワイトハウスから生中継で世界中へ発信した事が大きな違いを生んだのでしょう。
そして2つ目は、やはり彼が持つキャラクターです。世界中で過激な発言が報道され、良くも悪くも歴代大統領のなかで最も注目を浴びているトランプ大統領。そしてトランプ氏の娘婿でユダヤ人のクシュナー上級顧問、そして彼との結婚のためにイヴァンカ氏はユダヤ教に改宗しました。そんな家族がいるため自然と中東問題、特にパレスチナ問題に関してトランプ大統領の言動は歴代大統領よりも注目を集めるのだと思います。


3.パレスチナ国家を初めて認めた?― トランプが言った事

エルサレム首都宣言から一夜明けたエルサレムとベツレヘム

マアリブ紙WallaニュースDavar1.co.il より)


トランプ氏が今回行ったエルサレム首都承認に関する発言をまとめると以下の5点になります。

  • ・エルサレムがイスラエルの首都だというのは既成事実であり、公式に認める時が来た。
  • ・歴代大統領はエルサレムを首都と認める発言を繰り返してはきたが、実際には何もしなかった。
  • ・(そんな歴代大統領とは違い)私は大使館について「本格的な移転準備」に入るようスタッフたちに命じた。
  • ・エルサレム内の境界線(イスラエル・パレスチナ間)は和平交渉で取り決める。
  • ・アメリカ政府は、2国家共存解決を支持する。

日本・イスラエルを含め世界中のメディアでは、この中の最初の3つだけが取り上げられている印象を受けます。しかしこの中で最も大切なポイントは、最後の2国家共存解決についてです。パレスチナ問題に関してアメリカ政府はこれまで、和平交渉による2つの国家による最終的解決を基本路線にしてきました。しかしトランプ大統領は今年の2月に、「解決策を当事者に押し付けるべきではない」として2国家共存構想にはこだわらない姿勢を示していました。
ですからこのエルサレムに関する宣言はある意味、トランプ大統領がパレスチナ国家の樹立を公式に支持した初めての声明でもある訳です。


4.そして言わなかった事―

エルサレムへの米大使館の将来的な移転はアメリカ政府の公式見解であり、歴代の大統領が支持し95年には法律まで制定された事は上記に述べました。しかし95年以降、半年に1回大統領は法律施行の延期に調印するのが通例となっていました。それがトランプ大統領の「歴代の大統領は約束だけしてそれを果たしてこなかった」という発言が意味するところなのですが、当の本人も「移転に関する検討、そして実際の移転となると相当の時間が掛かるため」という理由で、歴代の大統領と同じように半年間の延期に先週調印しました。
そして話題のエルサレム承認の演説内でも、具体的にいつまでの大使館移転を計画しているかなどについては全く言及されていません。
またこの発言の中で、トランプ氏はパレスチナとイスラエルの2国家の共存という和平のロードマップを提示しましたが、そのロードマップの内容、そしてエルサレムをはじめ国境をどこで引くかについての米政府の見解等についても詳しく話しませんでした。


結論を出すならば、

今回のトランプ氏によるエルサレム首都承認は伝統的なアメリカ政府の基本的なスタンスを、国際社会に対して発表したに過ぎない。エルサレムを首都とするアメリカ政府の姿勢を国際社会は知ってはいたが、それを過激な発言で注目を浴びているトランプ氏がホワイトハウスから世界中に向けて発信したため、アラブ諸国からは反発、ヨーロッパなどからも懸念やけん制する声が挙がっている。

というような感じだと思います。


5.ネタニヤフへのクリスマスプレゼント?

汚職事件にゆれていたネタニヤフ首相。右下はミルチャン氏、左下はイェディオット・アハロノット社長モーゼス氏

(ハアレツ紙フォーブスnrg.co.il より)

トランプ大統領の「歴史的演説」から約1週間、ネタニヤフ首相は演説前に何度か大統領と電話で個人的な会談を行い構想をともに練ったと証言したり、外相も兼任しているため早速EUを訪問しエルサレムの首都としての重要性を説いたりと、エルサレムを中心とした活動を休みなくしています。
大手左派紙「ハアレツ」によると、今回の演説を引き出したネタニヤフ首相は現代イスラエル史に残る大きな功績を残す事に成功したうえ、ここ1年以上騒がれている自身の汚職疑惑について国民の厳しい目や批判をしばらくかわす事ができるだろうと報じています。
現在首相には2015年以降の少なくとも9つの汚職疑惑が浮上しており、ハリウッドでも活躍するアーノン・ミルチャンなどの富豪から数百万円相当の金品を受け取っていたという収賄容疑と、当時ネタニヤフ批判を続けていた大手紙イェディオット・アハロノットと、論調を弱めるための密約を結ぼうとしたのではないか、という2つの事件が主に捜査されています。また先月に入ってリクード党内の他の有力議員も贈収賄罪で事情聴衆を受けたり、リクード内から警察の国会議員に対しての取り調べ・起訴に関する権限を制限する法案が提案され、それについての反論が噴出するなどネタニヤフ政権に対しては向かい風の状態がここしばらく続いていました。
そんなタイミングでのトランプ大統領のエルサレム首都承認―
ネタニヤフに代わるリーダー待望論もあったリクード支持者たちの声も消え、左派を除く右派と中道は首相の外交手腕を評価する声が多く挙がっています。
色々な意味で、今回の一件はトランプ大統領からネタニヤフ首相への最高のプレゼントだったのかも知れません。

「バラガン」とはごちゃごちゃや散らかったという意味のイスラエルで最もポピュラーなスラングです。ここでは現地在住7年のシオンとの架け橋スタッフが、様々な分野での最新イスラエル・トピックをお届けします。



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