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イスラエルでも好評、ホロコースト・コメディ「ジョジョ・ラビット」 2020.2.21

walla.co.il より)

パラサイトが外国語映画として史上初の作品賞を受賞した、2020年のアカデミー賞。そんななか今回紹介したいのは、6部門にノミネートされ脚色賞を受賞した「ジョジョ・ラビット」です。第二次世界大戦末期のドイツで暮らしヒトラーを空想上の親友とする少年ジョジョと、自宅に匿われたユダヤ人の少女エルサの交流をコメディータッチに描いたこの映画。日本でも話題となっている本作が、イスラエルではどのように受容されているのでしょうか。


国営放送でもヒトラーをコメディにする是非についての特集が組まれた。

kan.org.il より)

600万人のユダヤ人が虐殺され、(口にはしませんが)ホロコースト犠牲者の骨の上に立っている、という強いアイデンティティを持つイスラエル。そんなこの国では、ホロコーストに関する映画が公開されるたびに、「ホロコーストが適切に描かれているのか」という議論が起こります。未だにホロコースト生存者が20万人も居るのですから、当然のことかも知れません。そして、それがホロコーストを題材としたコメディ映画であればなおさらです。例えばホロコースト・コメディの先駆的な作品であり、不朽の名作である「ライフ・イズ・ビューティフル」。この映画に関してイスラエルでは概ね肯定的な評価が下されていますが、「ホロコーストの残虐さが全く無視されていた」と批判の声もかなりあるほど。ジョーク好きで知られるユダヤ人ですが、ホロコーストに関しては笑いが全面解禁になっていないのが現状なのです。

そんなイスラエルで、ナチスに憧れる少年と“空想上の友だち”であるヒトラーをコミカルに描いた本作は、どのように見られているのでしょうか。映画に関するFacebookのページで感想を募ったところ、実際に映画を見たイスラエル人たちからは「良い映画だった」という声が多数寄せられました。

映画を見た多くの人から共通して聞かれたのは、「見る前は懐疑的、または否定的だった」といったコメントです。予告編を見た多くのユダヤ人が、ヒトラーが「良い奴」として描かれていると感じ、違和感を覚えたと答えました。ヒトラー・ユーゲントの合宿前に弱音を吐くジョジョの前に現れ「君ならできるさ」と優しい声を掛け、合宿中もジョジョを励ます親友ヒトラー。70年が経った今でもナチスは絶対的な悪であり、コミカルなオブラートに包まれているものの予告編から伝わる「悪者ではないヒトラー」に、多くのイスラエル人が違和感を持ち、「可愛らしく描かれるヒトラーを見て、観に行かない事に決めた」といった声もかなりありました。

しかし映画を観に行ったイスラエル人たちが語ってくれたのは、そんな懐疑的なイメージを良い意味で裏切ってくれた、というもの。印象的だったのは、「ホロコースト生存者を祖父母に持つユダヤ人として、この映画を見るまでナチスの子供を愛らしく思うとは、夢にも思わなかった」というようなコメントです。10歳であったとしてもヒトラーに心酔し、「ユダヤ人に出くわしたら、こうやって殺してやるさ」とナイフを振りながら豪語するドイツ人に親近感を覚えるなど、被害者であるイスラエル人としては考えられない事。不覚にもそんなタブー視された感情を覚えた、といった声が多く聞かれました。少年として悩み成長していくジョジョは、多くのイスラエル人の心を動かしたようです。

個性的な脇役陣により、ホロコーストに興味のない人も楽しめること間違いなし。

globes.co.il より)


また多くのイスラエル人がこの映画を見て、「ナチスドイツの人間味」に触れる事ができたと感じているようです。イスラエルでナチスドイツと言うと、どうしてもホロコーストでユダヤ人が受けて来た迫害・虐殺にスポットが当たり、「ナチスも同じ人間だった」という一見当たり前の事実を忘れそうになります。しかしジョジョはもちろんのこと、レジスタンスとして活動するジョジョの母親ロージー(スカーレット・ヨハンソン)、そしてナチスの体制側としては異質な存在で、ジョジョを救う事にもなるクレンツェンドルフ大尉などから、そんな忘れかけていた事実を思い出した人も多かったようです。しかし同時にナチスも私達と同じ人間だった、という事は誰もがナチスとなり大虐殺を行う可能性がある、という事にもなります。そんなことを考え、「ジョジョ・ラビットを見て、泣いて笑った。しかし最後には恐ろしい気持ちになった」といった興味深いコメントも見られました。

さて、そんな観た人には大好評なジョジョ・ラビットを筆者も先日、妻と2人で見に行きました。実はイスラエルの映画館でホロコーストやナチスを題材にした映画を見るのは初めてで、上映前は「ユダヤ人を前に笑ってもいいのだろうか」という不安がありました。しかしいざ映画が始まると妻をはじめユダヤ人たちは大爆笑、無事杞憂に終わりました。「ユダヤ人はサタンの末裔で、角を生やしており、クリスチャンの子供を襲う吸血鬼」という、古くからヨーロッパにある反ユダヤ的ステレオタイプをナチスが子供に教育する場面や、ジョジョに角の場所を聞かれたエルサが「私はまだ子供だから。生え始めるのは21歳からよ」と、冗談めかして答える1コマなど、筆者が笑っていいものかと一瞬躊躇していると、周りからは笑い声が。帰宅後、妻が娘に映画で見た「ユダヤ人は角が生えている」というステレオタイプを話していたのですが、こちらも爆笑しながら、「じゃぁ、21歳が楽しみだわ」と答えていました。


エルサの台詞からは、ユダヤ人・聖書の民としてのプライドが感じられた。(Popcorn Time スクリーンショット)


ちなみに監督のタイカ・ワイティティもユダヤ人。反ユダヤ主義から生まれた数々のステレオタイプをユダヤ人監督が逆手にとって笑いにし、それを見てユダヤ人の観客が爆笑している― そんな姿を見ていると、この「偏見や逆境を笑い飛ばす力」があったからこそ2000年近い離散を生き延びたのだなぁ、と映画を見ながら全く違う事で感動してしまいました。

最後に、映画の中で最も印象深かった台詞は?と聞くと、ほぼ満場一致でジョジョが「ユダヤ人は弱い」と言った際にエルサが放ったこの言葉が選ばれました。

「ユダヤ人は弱くないわ。私は天使と闘い、巨人を倒した民族の子孫よ。神が私たちを選んだの。」

さすが、聖書の民といったところです。

かなりマニアックな楽しみ方かも知れませんが、イスラエルに来た際にはホロコースト映画を見るのをお勧めします(もちろん上映時期であれば、ですが)。

70年経った「今のホロコースト」に触れる、貴重な体験になるかも知れません。



「バラガン」とはごちゃごちゃや散らかったという意味のイスラエルで最もポピュラーなスラングです。ここでは現地在住7年のシオンとの架け橋スタッフが、様々な分野での最新イスラエル・トピックをお届けします。


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